2019年11月28日(木曜日)大原記念労働科学研究所が2019年 第7回 労働科学研究所セミナー「誰もが生き生きと働ける社会を創る」(講演者・村木厚子氏)を開催
2019年11月28日(木)14:00~16:00
公益財団法人 大原記念労働科学研究所が、講演者に村木厚子氏を迎えて、2019年 第7回 労働科学研究所セミナー「誰もが生き生きと働ける社会を創る」を開催した(場所 桜美林大学・新宿キャンパス)。
社員の強みを見つけ、それに合った仕事をさせるのが社長の仕事
障害が「ある・ない」は関係ない
変化の時代では「ずっと学び続けること」「異なるものとつながること」が大事
混乱を受け入れ乗り越えて
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◆ 障害者雇用
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「人が働くことを応援する意味では何も変わらないこと」に気づくきっかけとなった社長さんの言葉
村木氏は、講演の冒頭に
「20年位前、労働省の障害者雇用対策課長になりましたが、そのとき私はたいへん戸惑いました。障害のある人と接点もなかったし、…不用意なことを言って、障害のある人の気持ちを傷つけるんじゃないかとか…自分のことを手足が縮こまって甲羅の中に首も手足も入った亀みたいだと思ったことも覚えています」と語った。
そして、その気持を解きほぐしてくれたある社長の言葉を紹介した。
「障害者をたくさん雇っている中小企業の社長さんが私に『社員の良いところ、何が得意か、何が強みかを見て、それに合った仕事をさせるのが社長の仕事、プロの経営者の仕事。だから障害のある・なしは関係ないんだ』と言ってくれました。それを聞いて、『ああ!そうか、私は20年間も労働問題を、人が働くことをやってきたんだ。障害があろうがなかろうが、その人が働くってことを応援するという意味で言えば今までやってきたことと何も変わらないんだ』ということを『はっ』と気がつき、それから、やっと普通に仕事ができるようになりました」と労働省時代のエピソードを語った。
そして、「その人の強みをきちんと把握して、それぞれの人が自分の強みで仕事をする」というアメリカや一部の日本の企業で取り入れられている『ストレングス・ファインディング』という雇用管理の方法を紹介した。
さらに、村木氏は、立ち仕事ができる車椅子が20年前に存在していたこと、階段が上れる車椅子があることを紹介し、「結局、社会しだい」であると語った。
また、障害者雇用率制度については、「最初の頃に(企業が障害者雇用を)勉強するきっかけとなる『宿題』だと思っている」と述べていた。
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◆ これからの社会に求められるもの
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令和の時代は「前向きな改革」を
村木氏は、平成の時代では、「痛みを伴う改革」が行われたが、令和の時代は、「前向きな改革」が行われるべきと述べた。
具体的には、「経済活動については、平成時代は、徹底的な効率化、労働分配率の抑制などが行われたが、令和の時代は、より創造的で付加価値の高い分野に資本と労働をシフトして生産性を向上させることが求められる。社会保障については、負担増と社会保障給付の効率化・重点化が行われたが、消費税10%で赤字がなくなるわけではない。令和時代には、税・社会保険料を払う人=働き手を増やすことが求められる。本当に苦しい改革だけですか? 危機意識をもって全員参加を」などと語った。
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◆ 「働き方改革」でやるべきこと
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健康維持、フェアな処遇、仕事と生活の質の向上が「働き方改革の本質」
村木氏は、「働き方改革」で行うべきこと(働き方改革の本質)として、
① 健康を維持し、家族を大切にすること(長時間労働の廃止)
② 様々な働き方をする人を公平に扱うこと(同一労働同一賃金、違うように働くので違う処遇となるがフェアでなければならない)
③ 仕事と生活の質を上げる多様で柔軟な働き方(場所と時間の柔軟化)
──の3つを掲げた。
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◆ 変化の速い時代をどう生きる?
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変化の時代に対応するために
学び続け異なるものとつながる
村木氏は、「今ほど変化のペースが速い時代は過去になかった。だが今後、今ほど変化が遅い時代も二度とこないだろう」というカナダ・トルドー首相のダボス会議での発言を引用して、「変化の速い時代をどう生きるか」について、持論を展開した。
村木氏は、ロンドンビジネススクール・マネジメント実践のリンダ・グラットン教授の日本に対する提言などを紹介し、変化の時代に対応するためには、①「ずっと学び続けること」、②「異なるものとつながること」──が重要であることを指摘。
特に②については、ラグビー日本代表のエディ・ジョーンズ前監督が代表に多くの外国人を選んだことなどを例に出して、「日本人は『異なる人』と協力して何かを行うことが非常に苦手。強みであった『同質性』が欠点になっている。異なる人と協力することができれば新たな可能性が」と指摘。
「必ず混乱が起こるが、それが科学的反応を起こし組織は強さを増す。混乱を受け入れ乗り越えて」と呼びかけていた。
村木氏は、穏やかでときに熱く、スタンディング&ノンストップで2時間の講演を続けた。
講演終了後、村木氏の前には、参加者が長い列をつくっていた。
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● 村木厚子(むらき・あつこ)
厚生労働事務官(平成25年7月~平成27年9月)を務めた後、伊藤忠商事社外取締役、津田塾大学客員教授等にて活躍。著作に「あきらめない―働くあなたに贈る真実のメッセージ」(日経BP社)、「日本型組織の病を考える」(角川新書) 他多数。
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次回(2019年 第8回 労働科学研究所セミナー )は、
2020年1月29日(水)14:00~16:00
桜美林大学 新宿キャンパス 3F J301教室
――にて開催される予定。
テーマは、「働き方改革に使えるシフトワーク研究の成果」
講師は、佐々木司氏(大原記念労働科学研究所 上席主任研究員)