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2020年1月 3日 (金)

令和二年 年頭所感 鈴木俊彦厚生労働事務次官

年頭所感

 

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(はじめに)

新年を迎え、謹んで年頭の御祝辞を申し上げます。

年の初めに当たり、改めて皆様の日頃からの厚生労働行政への御理解と御協力に感謝申し上げますとともに、今後の厚生労働行政の展開につきまして述べさせていただきます。

 

(全世代型社会保障への改革)

昨年十月の消費税の引上げ及びそれに伴う社会保障の充実によって、二〇二五年を念頭に進められてきた社会保障・税一体改革が一区切りとなりました。今後は、二〇二五年、さらには、団塊ジュニア世代が高齢者となる二〇四〇年頃を見据え、全ての世代が安心できる社会保障の実現に向けて取り組んでまいります。

昨年九月に、安倍総理を議長とする「全世代型社会保障検討会議」が設置され、年末には中間報告をとりまとめました。まずは、この中間報告を基に、次期通常国会に高齢者雇用や年金の関連法案の提出を目指すとともに、医療についても、関係審議会での議論を本格化し、今夏の最終報告に向け、検討を進めてまいります。

 

(多様な就労・社会参加の促進、健康寿命延伸、医療・福祉サービス改革)

少子高齢化が進む中で、多様化する就業ニーズに対応したセーフティネットの整備、高齢者の就業機会の確保等を図ることが重要です。このため、七十歳までの就業機会の確保、中途採用比率の公表義務化、雇用保険制度の見直し等について、次期通常国会に改正法案の提出を目指します。また、高齢者が安心して安全に働けるよう、増加する転倒災害の防止等の労働安全衛生対策にも取り組みます。

いわゆる就職氷河期世代の方々に対しては、一人ひとりの状況に応じた支援を行うことにより、同世代の正規雇用者を三年間で三十万人増やすことをはじめ、働くことや社会参加を支援します。

健康寿命の延伸を図るため、ナッジ理論などの行動経済学の知見も活用し、予防・健康づくりを推進します。

また、生産年齢人口が減少する中で、医療・福祉分野においても、専門人材が能力を最大限発揮することができるよう、研修制度の推進にも取り組みつつ、役割分担の見直しや効率的な配置の推進、AI・ロボット・ICT等のテクノロジーの徹底活用や組織マネジメント改革等を進めます。

あわせて、ゲノム医療・AI等の最先端技術の活用など、データヘルス改革を推進します。特に、昨年成立した健康保険法等改正法に基づき、医療保険のオンライン資格確認の導入、医療と介護のレセプト情報等のデータベースの連結などの円滑な施行を進めていきます。さらに、本年四月に予定されている診療報酬改定に向けて、昨年末に決定した改定率や改定の基本方針を踏まえて、中央社会保険医療協議会で議論を進めていきます。

 

(年金制度改革)

年金制度については、老後生活の基本を支える公的年金の安定的運営と充実に努めるとともに、老後生活の多様なニーズに対応する私的年金の普及・促進を図ってきましたが、高齢期でも働く意欲が高い方が増えるなど、社会・経済の変化に対応した制度を構築する必要があります。昨年の財政検証結果を踏まえ、被用者保険の適用拡大、在職老齢年金制度の見直し、年金受給開始時期の選択肢の拡大等を図るとともに、確定拠出年金の加入可能要件を見直すなど、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るための改正法案の提出を目指します。

年金事業運営については、日本年金機構の第三期中期目標・中期計画に基づき、国民年金保険料の収納対策、厚生年金保険の適用促進など、事務の適切な実施に引き続き努めるとともに、年金生活者支援給付金制度を着実に実施します。

 

(地域共生社会の実現に向けた社会福祉制度・介護保険制度改革)

人口減少、地域社会の変容が進む中で、地域社会とのつながりを失い孤立するケースや、一つの家庭の中で複合的な生活課題を抱えるケースが生じています。こうしたケースに対応するため、「断らない相談支援」、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」の三つの支援を内容とする包括的な支援体制の構築を推進し、地域共生社会の実現に向けて取り組みます。

社会福祉法人については、社会福祉法人を中核とする非営利連携法人制度の創設等、希望する法人が円滑に連携・協働化に取り組めるような環境整備を進めます。

介護保険制度については、地域包括ケアシステムを推進するとともに、介護保険制度を基盤とした地域共生社会を実現するため、介護予防・地域づくりと認知症施策の推進や、地域特性等に応じた介護基盤整備、生産性向上等に取り組みます。

こうした取組を推進するため、次期通常国会に関連法案の提出を目指します。

さらに、介護の受け皿を五十万人分増やすとともに、介護職員の処遇改善、アクティブシニア等の介護就労への参入促進、介護という仕事の魅力発信などの総合的な人材確保対策や、仕事と介護の両立が可能な働き方の普及に取り組み、「介護離職ゼロ」を目指します。

 

(地域医療体制の整備等)

医療分野では、二〇二五年の地域のニーズをしっかりと把握し、地域における病床機能の最適化を目指す「地域医療構想」、医療現場で常態化している長時間労働を是正する「医師の働き方改革」、医師の最適な配置により地域間、診療科間の医師偏在解消を目指す「医師偏在対策」を一体的に進めます。

医薬品・医療機器産業については、革新的な医薬品等の開発を促進する環境の整備に取り組むとともに、後発医薬品の使用促進やベンチャー企業への支援を実施します。また、「先駆け審査指定制度」や「条件付き早期承認制度」の法制化、薬剤師による継続的服薬指導の義務化、患者自身が自分に適した薬局を選択しやすくするための薬局の認定制度導入等、医薬品医療機器等改正法の円滑な施行に向け、準備に万全を期してまいります。

 

(働き方改革の推進)

一億総活躍社会の実現に向けて、二〇一八年六月に成立した働き方改革関連法の円滑な施行に努めます。特に、本年四月からは、大企業において同一労働同一賃金に関するルールが、中小企業において時間外労働の上限規制が施行されます。このため、制度改正に関する丁寧な周知に加え、生産性向上に取り組む中小企業に対する支援等を行います。なお、長時間労働が疑われる事業場については、監督指導の徹底等をします。

経済の好循環を実現するためには、賃金の引上げが重要です。最低賃金については、昨年、全国加重平均で二十七円引き上げて九百一円となり、昭和五十三年度に目安制度が始まって以降で最大の引上げ幅となりました。また、最低賃金の格差について、十六年ぶりに改善しました。今後も、中小企業・小規模事業者が賃上げしやすい環境を整備するとともに、地域間格差にも配慮しながら、最低賃金がより早期に全国加重平均千円となることを目指します。

また、全ての方がその能力を存分に発揮できる社会や個々人の主体的なキャリア形成が可能となる社会を実現するため、リカレント教育をはじめとした人材育成の強化、女性・若者・高齢者・障害者等の就労支援、ハラスメント対策の推進、柔軟な働き方がしやすい環境整備の推進、雇用類似の働き方の検討等に取り組みます。

我が国で就労する外国人労働者が増加する中で、その能力を有効に発揮できる環境を整備するとともに、技能実習制度については、運用の適正化に努めます。

 

(子ども・子育て支援、児童虐待防止)

待機児童の解消に向けて、「子育て安心プラン」に基づき、二〇二〇年度末までに三十二万人分の保育の受け皿を整備し、保育人材の確保等を行うとともに、市町村の特性に応じた支援の重点化・強化を行います。

放課後児童対策についても、待機児童の解消に向けて、「新・放課後子ども総合プラン」に基づき、二〇二三年度末までに約三十万人分の受け皿を整備します。

幼児教育・保育の無償化について、関係省庁とも緊密に連携し、円滑な実施に努めるとともに、保育の質の確保・向上についても一層取り組みます。

子どもたちの健やかな成育を確保するため、成育基本法に基づく基本方針の策定に向けた検討を進めるとともに、妊娠期から子育て期まで切れ目なく支援するため、子育て世代包括支援センターの全国展開を進めます。また、昨年成立した母子保健法改正法を踏まえた産後ケアの充実や、不妊治療への支援等にも取り組みます。

児童虐待の防止については、子どもの命を守ることを最優先に、全力を尽くします。具体的には、昨年成立した児童福祉法等改正法や、昨年三月に関係閣僚会議で決定された「児童虐待防止対策の抜本的強化について」等に基づく取り組みを着実に進めます。

虐待などの事情により、親元で暮らせない子どもたちも、温かい家庭的な環境で育まれるよう、里親制度の広報啓発や里親家庭に対する相談・援助体制の充実に努めます。また、児童養護施設等の小規模・地域分散化や職員配置基準の強化などを推進します。

子どもの貧困対策については、「子供の貧困対策に関する大綱」等に基づき、関係施策の一層の充実に向けてしっかりと取り組みます。

 

(受動喫煙対策、がん対策、感染症対策等)

受動喫煙対策については、本年四月の改正健康増進法の全面施行が円滑に行われるよう、国民や事業者への周知啓発、設備の整備に対する支援等に取り組みます。

がん対策については、「第三期がん対策推進基本計画」に基づき、がんゲノム医療の体制整備、治療と仕事の両立支援等を推進します。また、循環器病対策基本法に基づき、循環器病対策推進基本計画の策定に向けて議論を進めます。さらに、難病対策についても、法施行後五年の検討規定に基づき、関係審議会における議論の結果を踏まえ、必要な対策を講じます。

感染症対策については、風しんの抗体検査及び予防接種を着実に実施するため、企業への働きかけや国民の皆様に向けた広報の強化に取り組みます。

国際保健の分野においても、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進のほか、薬剤耐性菌を含む感染症対策等のグローバルな課題に的確に対応します。

二〇二〇年は、世界保健機関において、「看護師と助産師の年」と制定されたことから、「Nursing Now」キャンペーンとして関係団体と連携しながら周知活動に取り組みます。

また、改正食品衛生法に基づき、広域的な食中毒事案への対策強化等に引き続き取り組みます。

昨年十月に施行された改正水道法に基づき、広域連携、水道事業者の適切な資産管理、多様な官民連携の推進により、水道の基盤強化に取り組みます。

ハンセン病の元患者の御家族の皆様については、昨年十一月に施行されたハンセン病元患者の御家族への補償の着実な実施や偏見差別の解消に全力で取り組みます。

 

(障害者支援、生活困窮者自立支援、生活保護等)

障害のある方々が生き生きと地域生活を営むことができるよう、日常生活の支援、グループホームの整備、文化芸術活動や視覚障害のある方々等の読書環境の整備の推進などに取り組むとともに、引き続き雇用と福祉の一体的展開を推進し、重度の障害がある方々の通勤や職場等における支援を含め、労働施策と福祉施策において切れ目のない支援の確立を目指します。また、精神障害のある方々が地域の一員として自分らしい暮らしができるよう、包括的な支援を受けられる仕組みづくりを進めます。さらに、障害福祉人材の処遇改善を着実に進めます。

アルコール健康障害やギャンブル等依存症をはじめとする依存症対策については、医療・相談体制の整備や民間団体の活動支援等に取り組みます。

生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度については、それぞれの改正法に基づき、就労、家計、住まい等に関する包括的な支援体制の強化に向けた取組等を着実に進めます。

また、自殺総合対策大綱等に基づき、誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現に向けた取組を推進します。

成年後見制度の利用促進については、基本計画に基づき、昨年五月に設定したKPIを踏まえ、中核機関の整備や市町村計画の策定等の取組を推進します。

 

(援護施策)

援護施策については、日本人でない遺骨が収容された可能性が指摘されながら、長年適切な対応が行われてこなかったこと、それによって遺骨収集事業への信頼性を問われていることについて真摯に反省し、遺骨収集事業に関する有識者会議からの意見等を踏まえて、遺骨収集の方法等の改善に努めます。また、慰霊事業を着実に行うとともに、戦傷病者や戦没者遺族に対する年金等の支給、中国残留邦人等に対する支援策について、引き続き、きめ細かく実施します。

 

(各地の災害への対応、東日本大震災への対応等)

昨年は、台風や記録的な大雨等による甚大な被害が全国各地で発生しました。関係省庁とも連携しつつ、被災地の状況変化を踏まえ、スピード感を持って先手先手で対応するとともに、相次ぐ自然災害から国民生活を守れるよう、医療・福祉・水道施設等の強靱化に取り組みます。

東日本大震災の発生からもうすぐ九年が経過します。引き続き、被災者の心のケア、医療・介護提供体制の整備、雇用対策などに全力で取り組みます。

 

(厚生労働省改革、統計改革)

社会経済の変化に対応しつつ、適時・的確に政策を展開し、厚生労働省に対する国民の要請に応えることができるよう、ガバナンス強化や業務改革など、厚生労働省改革に全力で取り組みます。

また、「厚生労働省統計改革ビジョン二〇一九」に基づき、統計業務の改善やリテラシーの向上に着実に取り組みます。

 

 以上、山積している課題に全力で取り組んでまいりますので、国民の皆様には、一層の御理解と御協力をお願い申し上げ、年頭にあたっての私の挨拶といたします。

 

 

令和二年元旦

 厚生労働事務次官 鈴木 俊彦

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