労働者派遣制度の見直しに係る論点 【第8回 規制改革 雇用ワーキング・グループ】
8月29日に開催された第8回 規制改革 雇用ワーキング・グループでは、
の内容を中心として、労働者派遣制度について規制改革の観点から論点となると考えられる主要な事項が示されました。
労働者派遣制度の見直しに係る論点
【主要な事項】
1.制度の基本に係る論点
今後の制度の在り方として示された、(1)26業務を廃止すること及び(2)有期雇用派遣のみ同一派遣先への受入れ期間上限を個人単位で設定することについては、これまでの規制改革会議の主張に沿ったもので、この基本的方向性が堅持されるべき。今後の主要な論点として、以下が挙げられる。
(1) 常用代替防止
「常用代替防止」が規制の根拠として維持されているが、「派遣労働の濫用防止」(実態にそぐわない派遣の利用や低処遇・不安定雇用の防止)へ転換すべきではないか。派遣先の正規雇用労働者との均衡処遇を推進することで目的を果たすべきではないか。
(2) 期間制限の在り方等
① 派遣先レベルでの規制について
派遣労働者の交代等によって継続的な受入れ期間が上限を超す場合に必要とされる労使のチェックについて、それが裁量性の強い、透明性の欠けたものとなるなど、過度な規制を課すものとならないか。
② 雇用安定措置について
受入れ期間の上限に達する場合、派遣先への直接雇用の申入れ、新たな派遣就業先の提供、派遣元での無期雇用化等の雇用安定措置を講じるとされている。その際、受け入れ期間の上限に至る前に雇止めが増加するなどの懸念はないか。
2.平成24年法改正事項に関する論点
平成24 年10 月施行の改正労働者派遣法に新たに盛り込まれた規定については、契約締結、職業選択、採用の自由といった根本原則などの観点から様々な意見があり、労働政策審議会において見直しが検討されるべきではないか。
(1)日雇派遣の原則禁止について
日雇派遣(契約期間30 日以内)の原則禁止は、その濫用的な利用がワーキングプアの増加を招くことへの問題認識から設けられたものであるが、その直接的な効果は不明である一方で、限られた時間だけ働きたいと考える働き手など、一定の範囲で合理的なニーズが存在する。直接雇用の日雇契約との整合性を考慮しつつ、禁止原則の撤廃を含めた見直しが必要ではないか。
(2)労働契約の申込みみなし制度について
労働契約申込みみなし制度(一定の違法状態が発生した場合に、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなす制度。平成27年10月施行予定。)については、有期労働契約の無期契約への転換制度や「報告書」に記載された雇用安定化措置との関係、契約締結の自由との関係を考慮し、廃止を含めた見直しが必要ではないか。
(3)グループ企業内派遣の8割規制について
グループ企業内派遣は、グループ内の情報の共有が就労マッチングを高めたり、活用のコミットメントが派遣労働者の育成やスキルアップに資するというメリットもある。また、特定型派遣の普及のためには、安定した派遣先の確保が不可欠であることも考慮が必要である。派遣労働の濫用防止の観点も留意しつつ、8割基準の妥当性の検討を含め、抜本的な見直しが必要ではないか。
(4)マージン率等の情報提供について
諸外国でも他産業でも例のないと思われるマージン率の明示義務については、派遣先労働者と派遣労働者の均衡処遇を推進しつつ、廃止を検討すべきではないか。
【参考】
「規制改革会議 雇用ワーキング・グループ報告書」 (抄)
平成25年6月
Ⅱ.各論
3.労働者派遣制度の合理化
労働者派遣法の規制の根拠である「常用代替防止」は正社員の保護を目的としており、派遣労働者の保護とは必ずしも相容れない。また非正規雇用労働者が全体の4 割近くなった現在、これまで通りの手法でこの政策目的を追求することには限界があるとも考えられる。
仮に、「常用代替防止」が「不安定雇用の拡大防止」に資する政策目的だとしても、他の非正規雇用については他の手法で「不安定雇用」対策が講じられており、労働者派遣についてのみ「常用代替防止」の観点から規制するのは、政策の一貫性を欠き、政策目標そのものを不明確にしている。また、国際的に見ても、「常用代替防止」が規制の根拠になっている国は日本を含め少数である(別紙5)。
改めて政策目的を明確にしつつ、他の非正規雇用政策との一貫性も視野に入れ、「常用代替防止」のために派遣労働を「臨時的・一時的な業務」、「専門業務」、「特別の雇用管理を要する業務」に限定するという現行の規制体系、規制手法を抜本的に見直し、できる限り簡素でわかりやすい仕組みに改めるべきである。
今後、労働者派遣制度については、①派遣期間の在り方(専門26 業務に該当するかどうかによって派遣期間が異なる現行制度)、②派遣労働者のキャリアアップ措置及び③派遣労働者の均衡待遇の在り方を含め、労働政策審議会で検討すべきである。
なお、上記の検討に当たっては、別紙5の国際先端テストの結果を踏まえ、下記の論点についても検討を行うことが適当である。
(1) 業務区別の廃止
現状では、「26 業務」やその付随的業務への該当性が分かりにくく、現場での混乱が大きいため、業務区別の廃止を検討すべきではないか。また、「派遣」と「請負(業務委託)」の区別も形式的で技術的な基準によるものであり、法潜脱行為を招きやすいことから、「派遣」と「請負」の区別の基準を実質的にみて分かりやすいものに見直すことを検討すべきではないか。
(2) 派遣労働者保護の観点からの「派遣労働の濫用防止」の明確化
派遣労働への規制根拠として、「常用代替防止」ではなく、派遣労働者の保護という視点から「派遣労働の濫用防止」(実態にそぐわない派遣の利用や低処遇・不安定雇用の防止)という基本理念を新たに構築し、適切な派遣労働の発展を確保する必要がある。そのような観点から労働者派遣への規制を行うという方向で、制度や解釈の変更を行う必要があるのではないか。
(3) 「人」をベースにした派遣期間の上限設定
専門業務(「26業務」)や特別の雇用管理を要する業務に係る派遣については、上限期間を設定せず、それ以外の業務の派遣については、臨時的・一時的業務として最長3年までという派遣期間の上限を設定するというように、業務に応じて派遣期間の上限を設定する規制手法を、人を単位とした規制手法に転換すべきではないか。
併せて、有期労働契約(派遣元での有期雇用を含む)の場合、失業リスクが高まる分、雇用保険の保険料(使用者負担)を引き上げ、社会的リスクに見合った保険料の公平負担を図ることにより、有期労働契約や派遣労働の濫用的利用を防止することを検討すべきではないか。
現行法では、例えば3年の派遣期間の後、3か月間の直接雇用や業務処理請負という形式的な処理(クーリング期間)を挟んで、再び派遣労働者を利用するという企業行動を生み、常用代替防止や不安定雇用防止という政策目標を実現するものとして実効的に機能してきたとはいえない。
このような規制手法に代えて、派遣労働者の保護という視点から、同一の派遣労働者(派遣元で無期雇用のものを除く。)について同一の派遣先での派遣期間の上限(例えば3年)を設け、派遣という形態で派遣労働者が特定の派遣先に常用的に利用されるという派遣労働の濫用的利用を防止する手法が考えられる。
また、派遣労働者(派遣元で有期雇用の場合)に対して派遣期間の上限を特別に定めるのではなく、有期労働契約者として5 年を超えれば無期契約に転換する仕組み(労働契約法18 条)に基づき、派遣元での雇用期間に応じて雇用の安定(無期化)を図るという選択肢もある。
(4) 均衡処遇の推進
「常用代替防止」という政策目的について、EU諸国のように均衡処遇の原則の適用が事実上の常用代替の歯止めとなるよう法整備を図るべきではないか。
なお、「人」をベースにした派遣期間の上限設定は「人」を交代させることにより永続的に派遣を続けることができ、「常用代替防止」に反するという意見も考えられる。
しかしながら、これまでのような課題のある規制手法ではなく、均衡処遇を基盤とした対応(および上記の雇用保険料の公平負担等の政策的措置)を採ることにより、派遣労働の濫用的利用を防ぐことができ、ひいては「常用代替防止」にも資すると考えられる。
別紙5 労働者派遣に関する国際先端テスト
我が国の規制環境を世界最先端にするとの観点から実施した国際先端テストの結果等からみると、「常用代替防止」が規制の根拠になっている国は日本を含め少数である(事由で制限(フランス)、派遣労働者投入に事業所委員会の同意必要(ドイツ))。また、専門的な業務とそれ以外の業務というように業務区分により規制の異なる国は日本以外に類がない。
さらに、特定の業種・業務(建設、港湾、警備等)について派遣労働の利用を禁止すると
いう手法は諸外国ではあまりみられず、近年撤廃される傾向にあり、安全衛生リスクを理由とする危険有害業務での利用禁止がみられる程度である(派遣労働が制限・禁止されている例 ドイツ:建設業、フランス:核物質・放射性物質のある危険業務等、ベルギー:危険業務と公的部門、ポルトガル:建設業が危険業種として指定)。この意味で、派遣労働者に対する特別な安全教育の実施等は検討の余地がある。
派遣期間に制限を加えている国も日本以外ではほぼ南欧諸国に限定されており、またその趣旨は不安定雇用の防止(派遣労働者の保護)にある(フランス、ベルギー、ポルトガル、ギリシャなど)。
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