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2013年5月 1日 (水)

「キャリア権とキャリア法 ~スポーツ権・スポーツ法との対比で~」 諏訪康雄教授の記念講演

 4月16日に開催された「NPO法人 キャリア権推進ネットワーク」の「キックオフミーティング」にて行われた法政大学大学院名誉教授 諏訪康雄氏(キャリア権提唱者)による記念講演の内容を紹介させていただきます。

 

S1

キャリア権とキャリア法 

~スポーツ権・スポーツ法との対比で~



1 スポーツ権のことを知っていますか?

  2011年(平成23年)6月に成立した「スポーツ基本法」の前文では、「スポーツ権」とは、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利」とされています。超党派の国会議員からなる「スポーツ基本法」(会長・麻生太郎元首相)が提案した「スポーツ基本法」には、国家戦略として、スポーツ推進が位置づけられています。また、スポーツ権のほかスポーツ団体に紛争解決に向けた努力を求めたり、スポーツ庁の設置検討も盛り込んでいます。

 

2 スポーツを「キャリア」に置きかえるとどうでしょうか?

 確かにスポーツは、我々の人生にとって、すごく大事です。 ですが、もっと大事な、といったら間違いかもしれませんが、それに負けず劣らず大事な職業を中心に人生を有意義なものにしていく、人々が人間的にも成長していく、こうしたものを、キャリアという言葉で表していきますと、キャリアは、スポーツ権があるならば、キャリア権というのがあっていいのではないか、というふうになるわけでございます。

それで、このスポーツ基本法の「スポーツ」を、全部「キャリア」に置きかえますと、1番目に「キャリア権とは、キャリア、職業生活を通じて、幸福で豊かな生活を営むことを営むことはすべての人々の権利だ」のように置きかわります。

 それから、スポーツ基本法のスポーツをキャリアに代えて、キャリア基本法、こんなものを作ってみたらとか、そして、それは、超党派の支援が望ましいだろう。スポーツ権についての伊藤卓弁護士の発言をもじれば、「社会におけるキャリアの位置づけが大きくなる中、それぞれが自覚を持たなければならない」、こんなふうになるのではないだろうかと、考える次第です。

3 キャリアは法令用語では「職業生活」と訳されてすでに使われています

  とはいえ、キャリア権を考えると、実は私はスポーツ権というものを全然知りませんでした。スポーツ法という分野もあまり知りませんでした。そういうことと関係なく、私はキャリアの問題を少しきちんと法的にもバックアップできる基盤をつくっておかないと、キャリアをめぐる政策、例えば、キャリア教育をすると言ったって、「何のためにするのだ」、あるいはキャリア形成に向けて、国が色々な支援をすると言ったって、「何のためにするのだ」、あるいは、男女雇用機会均等法で女性に働く機会を均等に「何のためにだ」、障害者の雇用の機会をつくる。「何のためにだ」――それは、「みんな、個々人が、キャリアを自分なりに発展させて、そのキャリアの展開を通じて幸せになっていくという権利があるからだ」というふうに考えないと、色々な政策が単なる恩情とか、なんとなくやったほうがいいから、という、感覚的なものにとどまるのではないか、思ってきたわけです。

 そこで、ブックレット「キャリア権を知ろう」の1ページ目(画像参照)に、「キャリア権の定義」が書いてあります。

P1

    資料出所 「キャリア権を知ろう キャリアを磨く、キャリアを活かす」 (発行:NPO法人 キャリア権推進ネットワーク)

 「働く人が、その人生に大きな位置を占める職業生活を通じて、自己実現し、幸福を実現する権利」という趣旨のことが、書かれておりますが、これは理念としては、非常に重要で、これから人々が、元気を出して、活力をもって、日本を支えていくうえでは、非常に大事な考え方ではないか、と思っております。

 そして、すでにキャリアという言葉は、日本語では、法令用語としては、「職業生活」と訳されて使われています。すでに「職業生活」は、雇用機会均等法、障害者雇用促進法ですとか、色々な法律のなかに顔を出しており、実はキャリアは、法のなかに少しずつ理念のかたちで入っております。

それらを体系づけて、一貫したものにしていく、とりわけ、子どもたちのキャリアの準備である「キャリア教育」、これをきちんと位置づけていく必要があるのではないか、

そして、キャリア準備のキャリア教育、職業準備の職業能力開発、職業訓練みたいなもの、あるいは、最初の仕事について、人材を伸ばしていく、あるいは、身につけた力を発揮していってもらう、

あるいは、これからは、いくつになってもの、働くという時代になっていくとすると、自分のキャリアの最後をしめくくっていくのは、どういうかたちで、締めくくっていったらいいか

――こうしたことを考えていくもの、それを国が政策的に支援をしていく、この核になるものが、個人には「キャリア権」という現代版の基本的人権があって、それを法ではっきりと位置づけたらどうだろうか、と考えているわけでございます。

 

 

4 NPO法人キャリア権推進ネットワークに重要な軸(ハブ)の機能を期待しています

 

 そこで、キャリア権の研究会というのを作りまして、2年ほどにわたって、それを色々と考えた結果、ともかく理念としては、言われてみるとなるほどと思うけど、では現実に、それはどんな形で、実現していったらいいのか。どんな形で普及させていったらいいのか、というところで、「キャリア権推進センター」という名前で、NPOを作って、まずは、キャリア教育、あるいはキャリア形成支援などの関係の方々を中心に、しっかりと、キャリア権の理念を理解していってもらえたら、実務に生かしていっていただきたい、尊重していただくという方向を考えていけないか、それを推進するような、核になる機能を果していっていただきたい――と希望しております。

 

 また、キャリアを伸ばしていく上では、生涯学習というのが、非常に重要なこれからのキーワードになっていきます。実は、生涯学習は、誰かから教えてもらうというより、お互いに教えあう、学び合うという、こういう相互学習が非常に重要でございます。北欧などでも、この相互学習が、すごく盛んであり、成人教育は、相互学習のかたちで進んでいるとよく報告されております。

 これらを、この「キャリア権推進ネットワーク」にも目指していっていただけたら、そして、将来的には、キャリア基本法の立法化に向けた動きができたらいいなと思っているわけでございます。

 なお、下の方に参考で、雇用対策法という雇用政策の基本法、労働市場をめぐる法の政策の基本法のなかの基本理念に職業生活にふれたものがございます。

 また、職業能力開発促進法のなかにも、基本理念というかたちで、職業生活を尊重していくべきだという規定がございまして、これらは、キャリア権という考え方にいわば触発されて作られた規定だと言われておりますので、ご参考までに

 

簡単ではございますが、以上、我々がキャリア、キャリアと色々な形でいっているけれども、その基幹には、何か法的な根拠が必要ではないか、そして、その法的根拠を位置づけたら、それをめぐる一連の支援の政策、あるいは、その枠組みを作っていく、インフラストラクチャーを作っていく政策を、キャリア法、その学問をキャリア法学というかたちで、日本に根付かして行きたいなぁ、とに思っており、このNPOがそれに向けた重要な役割を果たしてくださることを、心から祈念しているところです。

2013.4.16 諏訪康雄)

 

S2

【参考】

雇用対策法 第3条(基本的理念)

 労働者は、その職業生活の設計が適切に行われ、並びにその設計に即した能力の開発及び向上並びに転職に当たつての円滑な再就職の促進その他の措置が効果的に実施されることにより、職業生活の全期間を通じて、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。

 

職業能力開発促進法 第3条(職業能力開発促進の基本理念)

労働者がその職業生活の全期間を通じてその有する能力を有効に発揮できるようにすることが、職業の安定及び労働者の地位の向上のために不可欠であるとともに、経済及び社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ、この法律の規定による職業能力の開発及び向上の促進は、産業構造の変化、技術の進歩その他の経済的環境の変化による業務の内容の変化に対する労働者の適応性を増大させ、及び転職に当たつての円滑な再就職に資するよう、労働者の職業生活設計に配慮しつつ、その職業生活の全期間を通じて段階的かつ体系的に行われることを基本理念とする。

 

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